sanyomomotaro2006-02-13

モワウラ君、就職内定!! 〜「走る大工集団」、重川材木店の一員へ〜

 おかやま山陽高校の陸上部の看板選手であったジョセフ・モワウラ君(ケニア・イリギターティ中出身)に、ついに就職内定が出ました。
 ご存知の通り、モワウラ君は、平成17年度の晴れの国おかやま国体にて、男子5,000m競技で自己ベストの13分53秒の記録で見事準優勝を勝ち取りました。
 そんなモワウラ君ももう3年生。今年でおかやま山陽高校を卒業します。卒業後の本人の希望は、日本国内で実業団に入り、ランナーとしての活動を続けること。そして、世界一のランナーになること。
 顧問の横山先生を中心に、モワウラ君の就職先を探しました。しかし、現実は厳しく、なかなか彼を受け入れてくれる実業団が見つかりません。日本人ランナーの記録が年々伸びており、もはやケニア人というだけで重用される時代ではないのです。
 そんな中、新潟県にある株式会社重川(おもかわ)材木店の社長であり、同社陸上部の創設者にして総監督でもある重川隆廣さんより、「よかったら、うちでがんばってみませんか」とのありがたいお話を頂いたのでした。
 重川材木店陸上競技部は、今年の新春の『ニューイヤー駅伝2006』(第50回実業団対抗駅伝競技大会)で、「走る大工集団」として一躍脚光を浴び、31位という見事な成績で完走して全国の駅伝ファンを湧かせた、知る人ぞ知る実業団です。
 採用にあたり、重川社長からは「うちはあくまでも大工として採用します。もし、他の大きな実業団のように、一日中練習だけできて、しかも多額の給与をもらえるような環境をうらやましいと思う気持ちが少しでもあれば、うちには来ない方がいいでしょう」と最初に伝えられました。
 重川材木店陸上競技部は、公式HPで、次のように公言しています。『社会人は、まず職業人として認められることを旨とすべし。30代、40代になった時、何で飯を食うか。家族を養い、自分が生活できる技量を習得することを基本としています。「仕事」と「走ること」に対する情熱を持ち、その両方を頑張れる人を歓迎、応援します。』つまり、選手としてのみでなく、あくまでも職業人として社会的に自律することを選手に求めています。
 そして、これは、おかやま山陽高校がモワウラ君たちの進路を検討するに当たって、一番大事に考えていた方針とまさに合致するのです。
 一昨年、ケニアに行った時、元在日ケニア人についての噂をあちこちで耳にしました。彼らの一部は、短い選手としての旬を日本の恵まれすぎた環境で過ごし、その後、祖国に戻って人身ブローカーのような仕事をしていました。モワウラ君たちにだけは、そうはなって欲しくないというのが私たちの願いでした。
 ですから、重川社長のこのような考え、想いは私たちには願ったり叶ったりでした。そして、モワウラ君と話し合い、本当にこのような考え方に納得できているのか、何度も念を押しました。
 特に、社長の言われた「あくまでも大工の仕事は完璧にやってもらわなければならない。その上で初めて、終業後に陸上選手として走ることを許す」という点について、いままで走ること以外考えてこなかったモワウラ君に耐えられるのかどうか、心配でした。
 それでも、モワウラ君は力強く「やります。がんばれます」と言ってくれました。
重川材木店陸上競技部について、もう一つありがたいことは、ゲタンダさん(選手)、オツオリさん(選手兼コーチ)という2名のケニア人の先輩たちが在籍しておられることです。社会人として、これまで以上に自分の責任が問われる状況でやっていかなければならないモワウラ君にとって、彼ら同郷の先輩の存在は本当に心強いものだと思います。
先日、重川材木店さんから、正式な採用内定通知を頂きました。
 木工作業の経験などまったくなかったモワウラ君ですが、実は、二学期の後半、重川さんのお話を頂いた頃から、マイスター・スクールの『木工工房』講座に編入させてもらっていたのです。そして、木工作業に使う道具の使い方などをこっそりとトレーニングしていたのでした。3年生はもう授業が終わっているのですが、モワウラ君だけは2月中も、特別に継続して1,2年生と一緒に木工工房の授業に出させてもらっています。
 もう1人のケニア人留学生のカリユキ君については、残念ながら、日本でランナーとしての活動を続けることは出来ないことが決まってしまいました。彼は今後ケニアに帰り、お兄さんの勤める左官屋さんに見習いに入ることが決まっています。しかし、中途半端に日本でぶら下がるより、そのほうがまっとうだと言えるのではないでしょうか。
 さらに、カリユキ君には、ほとんどのケニア人があこがれても手に入れられない「日本での滞在経験」という財産と、そこで身につけた日本語という強い武器があります。今後、彼がこれらのメリットを最大に生かしてくれることを祈っています。
 来年のニューイヤー駅伝では、モワウラ君が重川材木店陸上競技部の一員として颯爽と走っている姿が見られるかもしれません。これからもモワウラ君の応援をよろしくお願いします。



重川材木店陸上競技部公式HP

http://www.omokawa.co.jp/rikujyo/index.html