おかやま山陽高校周辺の自然 〜野獣の章、前編〜

 野獣といっても、せいぜいイタチかタヌキか、関の山がキツネあたりだろう、野獣なんて言葉、誇大表現も甚だしい、責任者を出せ!とおっしゃる声が聞こえてきそうな表題。でも、実際、野獣はこの地に棲息しています。
 この野獣、実は、この土地の土着の生き物ではありません。戦前、毛皮をとるために輸入された、例の富士額の巨大ネズミ。そう、ミッキ(以下自粛)ではなくて、ヌートリアです。
 南米原産の全長60cmを超える巨大ネズミ。毛皮は丈夫で肌触りがよく、かつては寒冷地に出征した兵隊さんを寒さから守り、今では毛皮ショーで高級コートの素材として紹介されることもしばしば。これが野生化し、なぜか岡山県に大量に棲息しているのです。
 最近でこそ、いろいろなメディアが取り上げるようになって、ヌートリアは有名になってきました。しかし、少し前までは知名度は意外と低く、道傍で死んでいるのが発見され、『ビーバーが死んでる!』と大騒ぎになったこともあったとか。
 実は私、一度、このヌートリアをほんの一瞬ですが、飼ったことがあります
 もう5年も前になるでしょうか。当時、おかやま山陽高校の文化祭の展示の部は、クラス単位で行っていました。当時、私は普通科の担任をしていましたが、文化祭を前に、展示内容を検討したのですが、なかなか生徒からいい案が出ませんでした。
 そこで、『待ってました!』とばかりに、担任から『真の共存共栄とは 〜外来生物を食べよう〜』という展示を提案しました。
 当時、バスフィッシングの流行にあわせて、外来生物の環境への影響が問題視され始めました。そのような中、この展示に込めたのは『すでに日本に根付いている生き物を根絶するというのもなかなか難しい。ならば、ここはひとつ、やつらを食ってみよう』というメッセージでした。
 同じ外来種でも、ニジマスブラウントラウトなどは、有用な漁業資源としてむしろ歓迎されている。でも、ブラックバスブルーギルは、食べられないので、なかなか歓迎されない。ならば、われわれが彼らに食用魚として日本での居場所を確立するためのチャンスを与えてやろう。お互いに、食物連鎖という共通の土俵に上がろうではないか、云々。
 ・・・などという小理屈をこねましたが、まあ、結局は、食ってみたかったのです。
 具体的な内容は、外来生物の生体の展示、ならびに、それらを素材にした料理の展示です。対象は、アメリカザリガニウシガエルブラックバスです。こいつらを捕まえてきて、その水槽の前に料理を並べるという具合です。
 でも、これだけじゃ、なんとなく寂しい。で、思いついたのが、岡山ならではの外来生物ヌートリアのヌーちゃんです。思い立ったが吉日、公務員をしている友人に頼み、狩猟許可を持っている人を紹介してもらい、ヌートリアを捕まえていただきました。もちろん、ヌートリアは食べるためではなく、生きている姿を見てもらいたくての展示です。
 引き取りに行ってみると、捕まったのはオス、メスの二匹。オスは罠でひどく怪我をしていました。その一方で、メスは非常に元気そうでした。オスは全長70cmはあったでしょうか。メスはやや小ぶりです。まあ、凄い迫力です。前歯は黄色く、それこそカールを2個、縦型に咥えているくらいあります(子どもがふざけてよくやるアレです)。指くらい平気で食いちぎるそうです。
まさに猛獣、まさに野獣です。
 とりあえず2匹とも引き取り、調理棟の裏に作った臨時の飼育小屋に入れました。
 ヌートリアは水の中でないと排便ができないとかで、ブロックで囲いを作り、ブルーシートをかぶせ、即席のタタキ池をつくり、そこに檻をつけました。
 まもなくオスは怪我が悪化して死亡してしまい、メス一匹だけを飼育し続けました。
 餌は天満屋ハピータウン鴨方店で買ってきたジャガイモ、ニンジン、カボチャなど。ジャガイモなら一度に3個は食べます。これが朝夕二回です。
 生きたヌートリアの展示は、文化祭まで内緒にしようということで、クラスの生徒だけ、放課後に小屋まで連れて行ってこっそり見せました。意外と可愛いと、女子生徒にも好評でした。
 文化祭まで後一週間となり、「こんな展示、誰も想像してないだろう。今年の最優秀賞はうちがいただきだ!」と、内心ほくそえんでいました。

以下、後編に続きます。