第15回定期演奏会

 去る12月4日、倉敷市民会館は感動と興奮に揺れました。
 今年で15回目を数えるおかやま山陽高校吹奏楽定期演奏会は、2,000人の観客をお迎えし、ついに開幕を迎えました。会場では、ご来場の皆様に大入袋が配られました。
 前半は、クラッシック中心のメニュー。“OLYMPIADA”で幕開けし、コーラスの「モ・モ・タ・ロ・ウ」、「自分らしく」に続き、ユーフォニウムの牛上隆司先生をソロにお迎えしての「協奏的幻想曲」。ユーフォニウムのソロはなかなか耳にする機会がないと思いますが、今回、牛上先生のソロをお聞きして、この楽器の持つ表現力の豊かさに改めて驚かされました。
 前半最後は、今年の全日本吹奏楽コンテストでの自由曲として挑戦した、「中国の不思議な役人」。相変わらずの複雑で高度な、転調に次ぐ転調の楽曲進行です。一番の聴かせどころ(個人的にそう思っているだけなのですが)のトロンボーンの掛け合い演奏もばっちり決まり、拍手、拍手で前半は幕を閉じました。
 後で、ある観客の方が「前半は音楽大学の演奏会のようでしたね」とおっしゃっていました。いくぶん高尚な(という表現はよくないのでしょうが)選曲は、まさにそんな感じでした。でも、曲と曲の間、舞台の転換の際、メンバーがコーラスを口ずさみながら行うなど、ひと時もお客様を飽きさせないようにするための工夫など、サービス精神は満点でした。これぞ、『おかやま山陽高校クオリティ』。
 後半に入る前、ステージに校長先生が現れました。シルクロードの街、カシュガルで自分で買ってきた「ホシタール」(バイオリンや胡弓などに似た弦楽器)を持っての登場です。「吹奏楽部で使ってもらおうと思って重い思いをして買ってきましたが、よく考えてみれば吹奏楽では弦楽器は使わないんでした」などと軽くボケながら、観客の皆様に歓迎のご挨拶をしました。


 さて、後半の幕が開きました。中桐先生の即席「スタンディングオベイション講座」に引続き、一曲目は「永遠のディスコヒットメドレー」と題する70年代のディスコナンバーを中心に構成したダンスナンバーでした。会場脇の扉から、この後登場する予定の特別ゲスト、元米米クラブオリタノボッタさんがサックスを奏でながら登場、生徒たちも客席いっぱいに広がっての、楽しい演奏でした。
 続いて、オリタノボッタさんのソロをフィーチャーしての“Tears of Moon”。やはり、プロのサックスは響きが違います、って、当たり前のことを言っちゃいけませんよね。そして続く今年のポップス企画は、「沢田研二 Greatest Hits」。会場にはジュリー世代が多くお見えのようで、みなさん、思わず歌を口ずさみながら演奏を楽しまれているようでした。
 さあ、ここでお待ち兼ねの「がまんタイム」です。今年のがまんタイム、一言で言うと、「がまん」の度合いは比較的、低かったのではないでしょうか。意外と、素直に笑えるネタが多かったようです。個人的には謎の「転校生」の正体が気になりましたが。
 最後は、恒例の「ブルース・オン・パレード」。イントロを聴くだけで、もう自然に体が反応してしまうほど、身に染み込んでしまいました。ブルースの音色に、それっぽい照明が合わさるだけで、同じバンドがなぜかジャズバンドに見えるから不思議です。金管楽器の反射が、ゴージャスです。
 そして、館内全員が立ち上がってのスタンディングオベイション。中桐先生の即席講座の効果ありでした。当然、アンコール。ここで再び、オリタノボッタ氏が登場です。このときのソロは、本当にすばらしかったです。音に色、あるいは、艶があるとでもいうのでしょうか。音の浸透圧が身体にちょうど合っていて、音色が身体にスーッと染みる感じが心地よかったです。観客の皆様にはルミカライトが配られ、照明が落とされた中、会場は蛍光色の光の波が揺れる幻想的な光景に包まれました。
 この後は、季節を少し先取りしたクリスマスメドレー。これは前回、アメリカでも大人気だったナンバーです。今年もきっと大うけでしょう。
 最後の最後は、松本先生から「おかやま山陽高校吹奏楽部のコンサートでこの曲が流れたら、もうアンコールはありません」とのアナウンスで始まった、おなじみの「マンボのビート」。これだけはもうどこにも負けません。躍動感、スピード感、すべてにおいて最高でした。


 今年の定期演奏会の感想を一言で言うと、毎年同じことを思っているのですが、「いままでの定期演奏会の中で最高の出来」ということでしょうか。特に今年は、客席の反応がタイトでクイックだったように思いました。
 とりわけ感動的だったのは、引退していく3年生を代表しての部長の挨拶でした。やはりこれも毎年胸を打たれるのですが、今年はその感動もひとしおでした。
 実は今年の3年生たちは、昨年末、昨年の3年生が引退した後、2学年合わせてわずか28名というメンバーで部を引き継いだのでした。もちろん、演奏のクオリティーは人数で決まるわけではありません。しかし、少ない仲間でいままでのレベルを維持していけるのか、その胸の中はおそらく、不安でいっぱいだったのではないでしょうか。
新チームになった直後、選挙で選ばれた部長候補のFさんに、顧問の松本先生は「奇跡を起こすつもりがあるか」と問い掛けたそうです。ただでさえプレッシャーがかかる「三欠」直後、わずか28名の部員を中心に新入生を指導しながら全国大会に挑戦するなど、まさに奇跡を起こすに等しい難題だったでしょう。
その問いに対し、「やります」と引き受けた部長のFさん、そして、力を合わせて奇跡を実現した部員たち。舞台上に並んだ彼ら、彼女らの顔は、ひとりひとりが偉業を達成した自信に満ち溢れているように見えました。
 でも、今年はまだ大仕事が残っています。間近に控えたアメリカはシアトル、そして、ロス・アンジェルスでのコンサートツアーを成功させなければなりません。現地では、前回、3年前のコンサートの評判を聞き、彼らの到着を今か今かと待ち構えてくれているファンもいるそうです。また、現地のマスコミも、すでに取材予定を立ててくれているようです。これが終わった時、3年生たちの本当の引退がやってきます。あとしばらく、涙は仕舞っておいてください。
 とはいえ、定期演奏会が終わって、まずはホッと一区切り。みんな少しは肩の荷が下りたというところではないでしょうか。吹奏楽部の皆さん、そして、いつも追っかけに来てくださった保護者の皆さん、今年も本当にお疲れ様でした。これからもよろしくお願いしますm( _ _ )m。