鴨方は酒どころ
 11月4日、調理科3年生による恒例の酒蔵見学会が行われました。
 調理科の3年生たちは未成年ですが、まもなくお酒を勧める立場になる生徒も多くいます。そこで、町内にある丸本酒造さんにご協力を頂き、彼らに酒造りの実際を見てもらうことを目的に行いました。毎年、新酒の仕込みが佳境を迎えるこの時期に行っており、今年でもう3回目になります。
 実は、今回お世話になる丸本酒造さんは、全国でも知るひとぞ知る、有名な酒造会社なのです。丸本さんは、全国で唯一、「酒米特区」の指定を受けておられ、自社で無農薬の酒米(山田錦)を生産しておられるのです。このことはNHKなどでも大きく取り上げられました。
 さらに、丸本さんは昔ながらの方法そのままでお酒を作っておられます。お酒の造り方にはもっと儲かる方法もあると聞きますが、丸本さんはあえてそれをやりません。むしろ、本当の日本酒の美味しさを、1人でも多くの人に知ってほしいと、本物の酒を、比較的安い値段で市場に提供しておられます。
 見学は、45名の生徒が二班に別れ、時間差で酒蔵にお邪魔しました。そして、約22名の生徒たちは、更に見学班と講義班の二手に分かれます。
 丸本社長のお話は、まず、現在、日本酒が置かれている状況からはじまります。昨今、わが国では日本酒の消費比率がドンドン下がっており、現在では10パーセントあるかないかの瀬戸際まで来ています。その一方で、日本酒を含む日本食は、海外で高く評価されるようになってきました。たとえば、ニューヨークあたりでも、日本の居酒屋をイメージした「日本酒バー」が、お洒落なスポットとして若者の間で人気になっているのだそうです。また、香港のように、日本酒の消費比率が日本に匹敵するところもあるのだそうです。
 さらにアメリカの中・上流階級の人たちにとって、商談やプロポーズなど、ここぞという勝負の際の食事は、フランス料理店ではなく、日本料理店でとるのだそうです。日本料理の繊細さ、技術の高さは、いまや世界中で高く評価されているのです。
ですから、日本で料理の勉強に携わることに、調理科の生徒諸君はもっと誇りと自信を持ってほしい、これが丸本社長のメッセージでした。
見学では、今年収穫した酒米が、発酵している様を実際に見ることが出来ます。白衣に身を包み、発酵タンクの中を覗き込むと、なんともいえないいい香りがします。ちょうど、リンゴとブドウとクリの香りを足して3で割ったような香りです。丸本社長によると、これが本当の日本酒の香りなのだそうです。残念ながら、この香りの大半は、殺菌・瓶詰めの過程でそのほとんどが失われてしまうのだそうです。まさに酒蔵でしか体験することができない、貴重な香りです。
丸本社長によると、日本酒ほど美しい発酵をするお酒は世界中を探してもないのだそうです。加えて、日本酒は、世界で最も複雑な過程を経て作られるお酒なのだそうです。
こんなにすばらしい日本酒が、祖国日本で飲まれなくなっている背景には、雑な製法による質の悪い日本酒モドキが氾濫していることも原因の一つとしてあるでしょう。しかし、それ以上に、我々日本人が、いたずらに舶来のものを有難がる傾向があるのではないでしょうか。
調理科の生徒諸君には、日本が世界に誇る日本酒、日本食の文化を、後世に受け継いでほしいものです。丸本酒造さんのような酒蔵がいつまでもお酒を作り続けることができるかどうかは、彼ら次第であるといっても言い過ぎではないでしょう。
後日、授業の中で生徒諸君に書いてもらった感想文からは、彼らが真剣に丸本社長の話を聞き、酒蔵を見学していた様子が伝わってきます。全員が用紙いっぱいに、素直な驚きと感動を表現してくれました。そして、最後はかならずといっていいほど、「20歳になったら、ぜひ丸本酒造さんのお酒を飲みたいと思います」との言葉で締めくくられていました。
すくなくとも彼らが生きている間は大丈夫のようですね。


***ここから先は大人限定の話になります。生徒諸君は読まないように。***

さてさて、丸本酒造さんの銘酒『竹林(ちくりん)』は本当にすばらしいお酒です。豊かなお米の風味が残っており、米の国・日本に生れたことに改めて感謝したくなります。身体にもやさしく、次の日に頭が痛くなるようなこともありません。日本酒は苦手という方にこそ、ぜひ一度試していただきたいお酒です。きっとそれまで日本酒に抱いていたイメージが変わることでしょう。
ちなみに、「竹林」はどこの店にでも売っているわけではありません。商品の温度管理のしっかりした、いわゆるワインセラーを持っているような店でないと、出荷しないのだそうです。お酒が生きるも死ぬも、輸送方法と保存方法によって決まってしまいます。お酒は、まさに生き物なのです。ですから、販売店はおのずと限られてしまいます。ほしい方は、鴨方町の奥、遥照山のふもとにある丸本酒造さんに直接買いに行くのが一番だと思います。
「竹林」には何種類かありますが、一番のお勧めは、「ふかまり」、いわゆる純米酒です。「ふかまり」は、「竹林」の中でももっとも求めやすい価格になっており、それだけでも十分嬉しいのですが、とくにお燗をしたときに一番美味しくなるということを目標に作られたお酒というところが、これからの季節、さらに嬉しいではありませんか。
「竹林 ふかまり」は、本当の作り方をしているから、熱を加えても味が壊れることがないのだそうです。それどころか、温まることによっていっそう風味が豊かになります。
以前、丸本社長はこんなことをおっしゃっていました。「大吟醸なら誰でも美味しく作ることが出来ます。日常酒として安い価格で提供できる酒を美味しく作ることにこそ、一番価値があるのではないでしょうか」。「竹林 ふかまり」は、この言葉をそのまま体現したようなお酒です。
同じ鴨方の地に、このようなすばらしい酒蔵があることは、私たちの誇りでもあります。ぜひとも一度お試しください。


丸本酒造HP
http://www.kamomidori.co.jp/