蒜山の自然について
 蒜山高原は西の軽井沢とも呼ばれ、自然を求めて関西方面からも多くの観光客・避暑客が訪れる、県下最大級といっても良い観光地です。
 ところが、その蒜山高原に、最近大きな変化が起きつつあります。
 キーワードはカブトムシ。毎年、おかやま山陽高校では新入生の教育キャンプのために7月の上旬から中旬にかけて同地を訪れます。生徒たちのみならず、引率の先生たちが、家庭で待つ子供たちのためのお土産として毎年持ち帰っていたのが、カブトムシやクワガタムシです。カブトムシは県南でもまだ多く見られますが、クワガタムシ、とくにノコギリクワガタミヤマクワガタといったいわゆる「レアもの」クワガタは、蒜山を代表する昆虫でした。
 以前は、先生たちが泊まるロッジの玄関の灯りをつけておけば、一晩に5〜10匹ものカブトムシやクワガタが飛んできたものでした。しかし、ここ数年、具体的にいえば3〜4年前から、その数がめっきり減ってしまいました。
 これにはいくつか原因があるようです。
 地元の方にお聞きしたところでは、一つには、大根畑の農薬の影響があるのではないか、とのことでした。でも、大根畑で農薬を使い始めたのは昨日今日のことではないはずです。
 もう一つ、最近の影響として考えられるのが、別荘分譲の影響です。
 おかやま山陽高校のキャンプ場は、三木が原と塩釜を結ぶ高原道路のちょうど真ん中あたり、ジャージーランドのすぐ隣という、最高の立地にあります。最近、周囲の草原や林が大規模に切り開かれ、別荘地として分譲されるようになりました。30坪から60坪程度の区画に切り売りされた、ニュータウンのような別荘街があちこちに出現しています。
 これができ始めてから、蒜山の昆虫は姿を消し始めたような気がします。
 最近、蒜山を訪れる観光客は増加傾向にあるということで、地元の方は喜んでおられます。しかし、昔の蒜山を知る者からすると、カブトムシすらいない蒜山は、気の抜けたサイダーのように感じてしまいます。
 もちろん、おかやま山陽高校のキャンプ場も、元はといえば牧草地や林を切り開いて作られたものです。ですから、我々も自然破壊の一役を担ってきたわけで、立場を変えれば早かったか遅かったかの違いでしかない、ということになります。我々も大上段に振りかぶって「自然を壊すな」と言える立場ではありません。
昨年でしたか、キャンプ中、夜8時ごろに本校のロッジの窓を開けていたところ、どこからかナイター中継のテレビの音が聞こえてきて驚いたことがあります。
交通の便の良いところに自然があふれていれば、多くの観光客が訪れ(もちろんわれわれもその1人です)、結果的に自然が失われてしまう。解決策のないジレンマなのでしょうか。



ケニア ジタバタ紀行 「なんだかなあ」編
その2 勝ち組・負け組は世界標準?

ナイロビ〜ナクル〜ナイロビ
6時間後れでエミレーツ機に搭乗、いよいよナイロビに向かう。アフリカ大陸上空に差し掛かると、飛行機の窓からの景色は一変する。大地の「しわ」の一つ一つのサイズが、アジア、欧州とはまったく異なる。
 午後6時半、定刻どおりジョモ・ケニアッタ・ナイロビ国際空港に到着するが、バゲッジクレイムで約1時間待たされる。空港を出たのは7時半、現地のエイジェント(日本人)と会い、車でナイロビ市内に向かう。
 この夜はおとなしくナイロビ市内のホリデイインに宿泊。翌日からの強行軍に備える。
 ナクルはナイロビの北西160kmに位置する地区である。国立公園であるナクル湖が観光地として有名である。ナクル湖は100万羽のフラミンゴが群生することで有名である。また、大地溝帯に属し、湖が多く、岩塩が特産品である。
 本来は初日の夜はここに宿泊する予定であった。一応、宿泊以外のブッキングは生きているので、とりあえずナクルへ向かう。
 ナイロビからナクルまでの車での所要時間は約3時間。街道はアスファルトで舗装されている。この舗装は日本の支援であるが、破損部分の補修まで手が回っておらず、いたるところに穴が開いており、運転には慎重を要する。昨夜、あえてナクルまでの移動をしなかったのはこのような道路事情によるものでもある。
 街道沿いには自然の風景が広がっているが、空気は思いのほか汚れている。これは国内の運送手段の大部分をトラックが担っているためで、車検制度がないことも手伝い、排気ガスによる大気汚染は主要街道沿いでは深刻である。本校のケニア人留学生が日本に来て空気がおいしいと言っていた理由が納得できた。
ナクル国立公園内でフラミンゴの群生のほか、シマウマ、ガゼル、ヌー、ヒヒ、サイ、イボイノシシなどの野生生物と出会う。昼食を挟み、午後にはナイロビへと車を向ける。
 途中、街道沿いにあるみやげ物店で休憩を取る。商品の大部分はマサイ族などの手製の置物、絵画などである。みやげ物店には値札がないのが当たり前で、とてつもない値段を吹っかけてくる。値段交渉で下げていくが、最終的には店側が提示した価格と客側が提示した価格とのほぼ中間で交渉成立となる。日本人は遠慮がちなので、最初に提示する価格が高いため、どうしても最終落札価格も高くなってしまい、いい客になっている。
 店にはオーナーがおり、彼らが売上の大部分を手にする。売り子はオーナーの指示する最低価格以上で客に商品を売りつけなければならない。後に判明したのだが、この最低価格自体、卸値の10倍から15倍に設定されている。実際は、ほとんどの客がこの最低価格よりかなり高い額で商品を購入している。結果、オーナーは裕福であり、高級外車などを所有している。
 それに対して、従業員の待遇は最悪である。ケニアの平均年収は300ドル台後半。日本円に直すと4,0000円程度。一日に直すと約1ドル、120円程度。これで生活している人が大半である。(公務員の年収はもっと良い。それでもこの2.5倍程度。)もちろん、生活必需品の物価レベルは低いので、贅沢をしなければ十分やっていけるのだそうだ。
店の脇でオーナーの高級外車を洗っているメイドさんの誇らしそうな顔(「私はこの車に触れることを許されているのよ!」)が印象的であった。
 このような搾取の構造は現代ケニアの最大の問題であり、経済発展の阻害要因となっている。これが官になると公費横領となって現れる。汚職は上から下まで、各段階で広く行われており、街道沿いでの「ポリスチェック(検問:警官による市民からのみかじめ料徴収の場)」は日常風景の一部である。このポリスチェックはタンザニアなど隣接国からの密輸を取り締まるためとの名目でいたるところで行われている。車内や所持品の検査は、密輸品が出てこなくても、延々行われる。検査が終わるのは、搭乗者の誰かが警官の手にそっとお金を握らせる時である。
運転手のガティキ氏(キクユ族)の話によれば、ケニアでは1年半前に政権が交代した際、横領の罪により20名以上の警官が見せしめとして処刑された。民主路線を敷く現政権は強力に綱紀粛正を推進しようとしている。しかし、いまだに警察官は庶民にとってもっとも直接的な権力者であることには変わりないようだ。
ケニアでは、この後も強者と弱者の対立項を多く目にすることとなった。やはりどこの世界にも勝ち組と、そうではない人たちとが存在する。ケニアではその差が日本などと比べようがないほどにあからさまである。それをもってすぐさま、ケニア社会は不平等だというつもりはない。そういう単純な図式に帰結させて満足したくない。しかし、やはり、柄にもなく、「なんだかなあ」と考え込んでしまうわけである。
ちなみに、ポリスチェックでは、外国人旅行者の乗る観光会社の車は決して停められない。旅行会社上層部と警察との間で取引があるのかどうかは、知らない。先進国から来る外国人は、とりあえず、ケニアでは権力者の側にいる。


ギトンガ校長
 夕方、ホテルにて翌日に予定されているイリギターティ中等学校訪問について、同校校長のアルフレッド・ギトンガ氏と打ち合わせをする。
 イリギターティ中等学校は、本校の2名の留学生の出身校で、本校とは姉妹縁組をしている。
ギトンガ氏は50歳前後、長身で痩身、キクユ族の出身である。
打ち合わせには旧来の友人でJICA専門員であるM氏も同席した。
 M氏の提案で、翌日にイリギターティ中等学校を訪れる際、同校の教職員と会食を持つことになる。その際、我々からの友情のしるしとして、ヤギを1頭贈り、それをさばいてみんなで食べようということになった。ヤギはケニアでは1頭3,000〜4,500ケニアシリングであるという。街道沿いでマサイ族の遊牧民から直接買うこともできるが、運搬が大変ということで、イリギターティ校の職員にあらかじめ購入しておいてもらえるようお願いすることになった。
 ギトンガ氏は、同日夜はナイロビ市内のホテルに宿泊し、翌朝我々と一緒に車でニャフルルに向かうという。しかし、今回のナイロビ出張は彼の個人的な判断で来た(実際にはM氏からの要請によるもの)もので、公費による出張扱いにはならないという。そのため、M氏より、可能であればギトンガ氏の当日の交通費および宿泊費用を支払ってあげてほしいとの依頼があった。宿泊費用約1,000ケニアシリングに交通費と夕食費を加え、3,000ケニアシリングを支払った。
M氏の話では、実際には宿泊費用はもう少し安いものと思われ、当日ギトンガ氏が予約しているホテルならば600ケニアシリング(900円程度)程度で泊まれるという。ミニバス(15人のりのワゴン車を使った路線バス)の費用はニャフルル〜ナイロビ間で片道300ケニアシリング(約500円)である。氏はケニアの教育公務員としてはかなり高い地位にいるわけだが、それでも、この程度の出費ですら氏にとっては負担になるという。
はたして、上級公務員であるギトンガ氏は強者なのか、弱者なのか。絶大強者である日本人の視点からは、とてもじゃないが、的確な判断などできないと感じた。