「倉式」

 倉敷の変換ミスではありません。「倉式」です。「倉式」は、先日、倉敷市にあるあるデザイナーズアパートを会場に行われた、アートコラボレーションのタイトルです。
 おかやま山陽高校のマイスター講師で、久保田先生という方がおられます。マイスターではワード講座を担当して下さっていますが、本業は、環境デザイナーでいらっしゃいます。先日、ニュースでも紹介されましたが、インドに岡山後楽園を模した公園が造られました。この公園のデザインは、実はこの久保田先生の手によるものなのだそうです。
 そんな久保田先生が、先生のお父さんの持ち物であったアパートの改築に際して、「ちょっと遊ばせてくれ」とお願いして出来たのが、今回の会場となったB−SQUARE(ビースクエア)です。都会では斬新なデザインが売り物の「デザイナーズマンション」が流行っているようですが、それをアパートでやってみたのだそうです。
デザイナーは、もちろん、久保田先生。出来上がったアパートは、ユニットバスが透明なガラス壁に囲まれた、よくいえば「生活感が希薄な、アートでおしゃれな空間」、悪く言えば「どうやっておしっ(以下略)」。(実際には、ガラスの内側にカーテンレールがあり、ユニットバス用のシャワーカーテンで目隠しが出来ます、念のため)
 田舎にはあまりに先進的すぎたのか、倉敷駅から徒歩10分、落ち着いた非常にいい環境に立地しているのにもかかわらず、家賃も5万円台と決して高くないにもかかわらず、B−B−SQUAREには、いまだ入居者が決まりません。
 人が入らないなら、もう少し遊んじゃおう、ということで始まった企画が、「倉式」でした。
 「倉式」は倉敷周辺地域に在住するさまざまな分野のクリエイターが、分野を越えて集まり、B−SQUAREを会場にインスタレーション(展示会場全体を一つの作品とみなして、オブジェ、絵画、そのほかで装飾するアート活動)を行ったものです。
 参加したアーティスト・クリエイターは20名以上。中には、知人の紹介で会場に遊びに来て、その次の日には自分の作品を展示するために持ってきた、という人もいたようです。もちろん、我らが川埜龍三先生も参加されています。制作中の新作「RAVEN(レイヴン:オオガラス)」の習作などを展示されていました。
 お邪魔したのは最終日でしたが、久保田先生のお友達も何人か来ておられ、いろいろなお話をおうかがいすることが出来ました。
 印象に残ったのは、倉敷を拠点に「100年使える家具」をキャッチフレーズに、木製家具を製造・プロデュースしておられるHさんのお話と作品でした。Hさんの工房の家具は、今話題の表参道ヒルズ内のカフェにも納められており、ヒルズの設計者のA氏が、そのすわりごごちを絶賛されたとか。
 H氏いわく、「これだけ個性の強いメンバーばかり集まって、一つのことが出来たこと自体、奇跡。でも、面白いことをしようとしている人は、目でわかる。判断基準は、好きか、嫌いかだけ。儲けに走ったり、自己主張だけしたりするような人は、この場に参加しても居場所がないでしょうし」云々。確かに、久保田先生も、川埜先生も、目の前におられるH氏も、みなさん、失礼に聞こえるかもしれませんが、普通の人ではアリマセン。川埜先生など、以前、九分九厘出来上がっていた作品に、依頼主がひとこと注文を付けただけで「それは僕の仕事じゃありません」と契約破棄したという、武勇伝の持ち主。聞けば、川埜先生も、分野にこだわらずいろいろな人が集まるという点に共鳴されて、参加されたとか。
 久保田先生がニヤニヤしながら「うらやましいでしょ?『大人の文化祭』ですよ」と自慢されますが、まさに至言。やっている人たちがいちばん楽しそうです。「次にやる時は参加してください」とお誘いを受けますが、クリエイティブな活動を何もしていないわが身の悲しさを再確認するのみ。
 とりあえず、H氏のイスには、やられました。無垢のくるみ材を削りだしたイスで、クッションも何もないのに、座るとなぜかやわらかく、あたたかい。イスフェチとしては、欲しくてたまりません。年度末で先立つものが乏しいので、いまは買えないけど。でも、いつか手に入れたい逸品です。
 ほかにも、ある女性が作っておられるという「絹を素材に、それを紡ぐのではなく、叩いて伸ばして、ふわふわの綿菓子のような塊にして、彩色して、帽子にしたもの」が面白かった。手にとると、まったく重さを感じない、天女の羽衣もかくや、という代物。文章ではなかなかうまく説明できませんね。
 次回は、岡山に会場を確保して、半年後を目途に開催する予定です。そして、その次には笠岡の川埜先生のアトリエ『蔵4号』を会場に、一年後の予定とか。
 岡山を元気にするムーブメント、倉式。いま、始まったばかりです。