会社見学
 先日、ある会社にお邪魔しました。中小企業家同友会のメンバーで、岡山市内にある橋本義肢製作㈱さんです。橋本義肢さんが、このたび、社屋・工場を新築されたので、見学会にご招待を受けたのです。
 橋本義肢さんは、社名の通り、義肢、すなわち、事故や病気で手や足を無くした方のための人工の手(義手)や足(義足)を製作されている会社です。
 義肢・義手は、その人の体の一部になるわけですから、規格品と言うわけには行きません。ほとんどがその人の体型や生活実態に配慮したオーダーメイドです。
 義肢作りには型取り、原型製作、機械部分の製作、外装部のデザイン、製作など、いくつもの工程があります(工程は実際にはもっと多いようですが、素人なのでこれ以上はわかりません)。使う素材も、ポリエステルやセルロイドのようなプラスチック系のものから、カーボン繊維やチタン合金などのハイテク素材まで、様々です。
 橋本義肢さんの新工場は、これらの様々な工程や、素材の加工が効率的に行えるよう、合理的に設計されていました。各作業台にはドラフター(空気排出装置)が設置され、健康上の安全面もバッチリでした。
 工場を見せていただいているうち、だんだんと『ものづくり(に口を出すことが)大好き人間』の血が騒いできます。「この工場ならば何でも作れるなあ。とりあえず、ロボットなんか、生きている人間そっくりのものができるだろうなあ。あと、恐竜のアニマトロニクスなんてのも、できるよなあ。それから、それから・・・」。
 社長の橋本さんはまだお若い方で、今回の新社屋・新工場建設には非常にたいへんな決心が必要だったそうです。それでも、その出来栄えにはたいへんご満足のようで、本当に誇らしげに社内を案内してくださいました。「なんでも出来そうな工場ですね」と言うと、「よかったら使ってください」とのご返事。いいんですか?おかやま山陽高校は、そういう社交辞令を真に受けて、本当に来ちゃいますよ?
 見学させてもらってわかったことは、義肢製作という仕事が世のため、人のためになる、すばらしい仕事であるということでした。製品一つで人の人生が変わってしまうのですから、いい仕事が出来て、患者さんから感謝された時の喜びは非常に大きなものでしょう。実は、今から約20年前、私の祖母が脳血栓で半身不随になった時も、この会社にお世話になったのです。
ただ、一方で、義肢製作は、決して将来が手放しで明るいという業種ではないと言うことも教えていただきました。最大の要因は、医療技術の進歩です。昔ならば切断しなければならなかった部位が、現在では充分に温存することができるようになってきたのだそうです。これは社会的にはもちろん喜ぶべきことなのですが。
 ですから、橋本さんも、今後は会社としてさまざまな可能性を考えていかなければならない、とおっしゃっていました。確かに、あの工場ならば、面白いものが何でも作れるでしょうが(実際、以前は特撮ヒーローのマスクを作ったこともあったそうです)、それを採算ベースに載せるとなると、これは大変なことでしょう。
 橋本義肢製作㈱さんは、長い歴史を持ちながら、同時に若々しくて活力のある会社でした。遅くまで熱心に工場をご案内くださった橋本さん、奥様、ありがとうございました。
今度おかやま山陽高校がなにか作る時には、来る!きっと来る!! 覚悟しておいてください。


ケニア ジタバタ紀行 「ヤギよこせ」編

先日来、モワウラ君のご取材をいただいていたとき、ケニア紀行の残りがまだまだあったことを久しぶりに思い出しました。久しぶりに続きをアップします。なお、この紀行を読んでやろうという奇特な方へ。これ以前の章は8月16日付けのポレポレ日記をご参照ください。

その4 初めてのケニアのローカル食(中トロVer.2.1)
 そうこうしているうちに、我々の前にも皿が並べられ、料理が配膳された。ケニアに来て始めての本物のケニア食だ。これまでは泊まっているホテルで食事をとったが、ホテル会社がアメリカ系であるため、食事はいわゆるバイキング料理で、ケニアらしい食物にはいまだありついていなかった。
 まずは主食として出してくださったのが、生徒たちが食べていたのと同じ、豆類とイモ類と穀類を混ぜて煮たもの。マッシュポテトに豆と雑穀が混ざっているものと思えばよい。味らしい味は、つけていないようだ。
 次に供されたのが、現地で大雑把に「シチュー」と称される、ヤギの細切れ肉をトマトとたまねぎと一緒に炒り煮にして、岩塩で味をつけたもの。ケニアではトマトとたまねぎは調味料扱いなのだそうだ。味付けは岩塩がほとんどだが、塩を買うお金のない人は唐辛子で辛味をつける(そのへんに生えている)とのこと。味は日本人の我々に非常になじみやすいもので、醤油を使っているのかと疑うようなコクとまろみがあった。トマトの甘味とタマネギの甘味に、精製度の低い岩塩のミネラル分(不純物とも言う)が合わさり、このような味わいが出ているようだ。ちなみに、このヤギ肉は、もちろん、我々がお土産に贈ったもの。
 続いて、サトイモを大きくしたようなイモ類をゆでたものが供された。このイモの名前は残念ながらよく聞き取れなかったが、うすいピンク色で、細かい繊維が入っている。丸ごとの大きさは大人のこぶしくらいで、二分の一から四分の一に切ってあった。「とても甘いから食べて見なさい」といわれてかぶりついたが、ほとんど甘みは感じられない。サツマイモの方がはるかに甘い。やはり、普段から甘いものを食べなれている我々とケニアの人々とでは、味覚の感じ方が違うのだろうか。
 以上が並べられ、再び会話に花が咲く。割り箸は意外に人気で、イリ校の教員諸氏の手から手に渡って、皆さん悪戦苦闘しては大笑いしている。
 そうしているうちに、本日のメインディッシュ、ヤギの脚のあぶり焼きが供された。後ろ足とアバラ(いわゆるリブ)の部分を、それぞれ丸ごと炭火の上で焼いたもの。2,3名の先生たちがナイフを手に細かく切り分け、めいめいの皿に取り分けてくれた。
 ギトンガ校長と話をしながら、何気なくかぶりついて、
「・・・!」
 美味すぎて言葉が出ない。肉のきめ細かさ、味の深さ、甘み、ジューシーさ、どれをとっても最高の味わいだ。日本ではヤギは臭みが強いと言われている。しかし、口の中にある肉は、いやなにおいはまったく感じられず、むしろ香ばしい。炭で焼いたというだけでは説明がつかない。そして、肉の甘みと塩味のバランスが絶妙だ。
 「これは何で味をつけたんですか?」
 すぐ向かいでヤギをほおばっている若い女の先生に聞いてみました。
 「Just salt. (塩だけ)」
 「Incredible! (信じられない)」
としか返す言葉がなかった。それほどこのヤギは美味しかったのだ。
 「これは今まで食べた中で最高の肉の一つです」とギトンガ校長に伝えると、「それは良かった」と喜ばれた。
 もしかすると、ケニアのヤギは日本のものとは種類が違うのかもしれない。あるいは、餌として食べているものの違いが臭いと味に差をつけているのかもしれない。このヤギは、今朝方までは道端でその辺の草を食み、抗生物質や運動不足とは無縁の健康な生活を送っていたわけだから。
 現地の人々にとってもヤギはご馳走らしく、皆さん、熱心にかぶりついておられる。一番美味しいリブの部分は、こちらが催促するまで我々にはまわってこなかったくらいだ。
 最後に、porridge (粥)と称する飲み物が供された。これは、雑穀を粉にして、水で溶かしたものをしばらく寝かせて発酵させ、甘みと酸味を出したものだ。温度は常温かそれより多少高い程度。正直に言えば生ぬるい、奇妙な味の飲み物。これはデザートということのようだった。決してまずくはなかったが、生ぬるさと酸味から、腹具合が心配になった。しかし、雑菌の多い環境では、食品に特定の菌を繁殖させることによってむしろ腐敗を防ぐ効果があるとのこと。実際、体調は以後、何ともありませんでした。
 私はどの国に行っても、旅行中は一切日本食を食べない、そして、現地の人に出されたものは完食する、とのルールを自分に課すことにしている。もちろん、淡水魚をナマで出されたような場合には再検討が必要だが。今回のケニアでは、幸運なことに、このルールを達成することができた。